靴職人の夫婦と子供、4人家族のための住まいである。
家族を取り巻く環境の変化に伴い、元々住居兼作業場としていた賃貸戸建を、作業場兼店舗として住居と分けることになり、今回のマンションを購入、改修することとなった。
” 10年後も履きたい靴”というコンセプトで制作を続ける施主の姿に共感し、それに応えられるような大らかさと寛容さをもつ住まいとしたいと考えた。
家族の成長に伴って変化する将来の要求を見据えつつ、その変化を受け入れ対応できる骨格(=変わらないもの)を整える。
そのために、薄く広く要望に応えるのではなく、優先順位を自覚し、濃度を変えて全体を設計することを意識した。
具体的には、”靴”という施主の人生の中心となる物の居場所である玄関は、既存のレンガ調玄関土間のタイルを、玄関ホールとそれにつながる廊下まで延長し、中玄関特有の湿っぽい暗さや狭さではなく、”靴”(=施主の作品)の背景として、ギャラリーのような非日常性が感じられる暗さや広がりをつくった。
また古いマンションによく見られる存在感の強い大きな梁が空間を細かく分断していたが、それを肯定的にきっかけとして捉え、玄関とは対照的な、明るく眺望の良いリビングの窓を臨むフレームとして強調した。それにより、暗い玄関(廊下)と明るい居室(リビング、個室)という、濃淡を持った空間を生活動線上に体験できることとなった。
加えて、もの作りを生業としている施主らしく、仕上げの漆喰塗りなど手を動かしDIYすることで優先順位を叶えていくことも、この住まいの質を担保する大きな役割を担うこととなった。
今回整えた骨格をもって、10年後もその先も、変わっていく家族を軽やかに受け入れ、子どもたちの記憶に刻まれる原風景となる住まいとなることを願っている。
【Before】