東京の町をぶらぶらと当ても無く歩くことが好きです。
話題のスポットやおいしいレストラン、雰囲気のいい雑貨屋を巡るなどという目的を持っている場合もありますが、それよりもただ単純に町を歩くということ自体がおもしろくて歩いています。商店街でもいいし、河川敷でもいい、何の変哲もない住宅街でもいい。仕事などで知らない町に降り立ったら、出来るだけその町を歩くようにしています。気の向くままに歩いていると、自分の想像とは違う風景に突然出会えたりします。増築や改築の末に宮崎駿アニメに出てきそうな建物があったり、畝った坂道を下ると古い橋がかかっていたり、高層ビル郡を背中に抱えている古い平屋群が現れたり、等々。それは、人間の恣意的な計画が入っておらず、年月を重ねいろいろな事情や人の手がただ重なって、結果偶然に出来てしまった光景です。その一方、道を一本ずれると、整然と並んだ分譲住宅地があり、華やかなショップが並ぶ大通りに出たりする。何というギャップなのだろうと。表と裏がすぐ隣にあって入り組んでいる。表と裏が脈絡なく偶然に散らばって出来ているのが東京という町なのだと感じます。
ヨーロッパのいくつかの都市を歩いたことがありますが、これ程のギャップを持つ都市は早々出会ったことがありません。統一感のある町並みはその都市のイメージになり、だからこそ美しいと私たち日本人は感じます。しかし、そのような国の人々が逆に、この東京という町を見る時、混乱すると同時に、場当たり的で変化に富む町並みを、どこかでおもしろいと新鮮に感じることは、分かるような気がします。
市部から中央線に乗り新宿駅に着く少し手前、新大久保辺りから見える新宿方面の光景はまさに東京という都市を象徴しているように思います。雑多な住宅街や小さく古ぼけた商店街越しに広がる新宿副都心の高層ビルの群れ。その二面性こそが東京という都市を一番端的に表していると思うのです。
東京。あまりにも使い古された題材ですが、私なりに、他の地方都市との間にプライオリティを見いだすとしたらそれは、町歩きの楽しさ、と本気で答えるかもしれないなぁ。