世に出てきてもう珍しくないVR(仮想現実)という世界があります。
先日ある方から、建築界でもVRが広がってきているという話しを聞きました。
まだそこまで普及はしていないようですが、例えば、CADで描いた設計図を3Dソフト上で立体のデータにしておき、VRグラスかけると、その3D空間を実際の大きさで、擬似的に体験出来る、というようなものらしいです。
家具などの大きさはもちろん、素材に至たるまで作り込んでおけば、さながらモデルルームの中を歩いているような体験ができるそうです。
まだまだ素材感などの精度は粗く(高解像度にするとデータが途切れる)、おもちゃの空間の域を超えていないようですが、おそらく本物と見まがう程の質になっていくのも時間の問題でしょう。
建物を使うお客さんが実際のものが出来る前にその空間を体験でき、実感を伴った反応を、設計段階で随時反映させ、デザインに落とし込むことが可能になるのです。
こんなはずじゃなかった、こんな風になるなんて分からなかった、等々、建築界のトラブルの根源は、実際の完成品を見ること無く、各々の統一されない想像だけで、物事を決定していかなければならないこと、そのような状態で少なくないお金が動くこと、そして気がついた時には後戻り出来ないということにあります。
きっとVR上で一度確認出来ることになれば、そのようなトラブルは目に見えて減るのでしょう。
設計者や施工者側も、無用なトラブルを避け、自分を守る大きな安心材料となるはずです。
でも。やはり。
技術がいかに高度なものになったとしても、私は、あくまで限定的な使い方に留まるのではないかと思っています。
空間、とはそんなものでしょうか。
空間は、映像ではなく実態です。
ただ「見る」ものではなく、「触れ」「聴き」「嗅ぎ」その結果「感じる」ものです。
視覚的な情報は、全体の情報のごく一部でしか無く、それ以外の膨大な情報を無意識に感じ取って、私たちはその空間を認識しているのです。
見ることによる「正確さ」。
全てを正確に見ることによる「安心感」。
それだけを拠り所に進んだ行く末は、それしか表現出来ない薄っぺらい空間が出来上がるという末路を辿るような気がしてなりません。
人間が持つ豊かな感性、想像力や理解力、コミュニケーション力、そして説明し難いけれど鋭く本質を見抜く第六感力ーきっとそこには専門的知識や施主設計者の立場も関係ありませんーそんなようなものを総動員した時に出来上がる空間。
それはきっと、濃密で奥行きがあり、常に新しい発見に満ちた、人間にとっての原初的な空間になるのではないかと思うのです。
それはそうと、科学技術の発展に抗うこともできそうになく、、、
手書きからCADというパソコンソフトを使った製図が当たり前になったように、VRを使った設計が普通になる時代も近いのでしょう。
抗うのではなく、どうつき合っていくか。
そこにAI(人工知能)ではなく、人間の「考える」という能力が試されるのかもしれません。
データや映像だけでは決して表現できない、むしろそれ以外の何かに満ち溢れた空間を作りたいと改めて気付かされる思いでした。