築30年程度、4階建マンションの最上階の一室のリノベーションである。
ブックデザイナーの夫とアートディレクターの妻、小学生の子供の3人家族の住まいであり、フリーで活動する妻のアトリエも兼ねている。
交通量の多い南側の前面道路と北側斜線で切られた斜めの壁に囲まれ、外部空間との接続性はあまり高くない。
そのかわりに、専有の広い屋上バルコニーとそれに向かう室内階段の大きな吹抜け空間が特徴的であった。
新築当時、コーポラティブハウスとして建設されたこのマンションは、全室異なる間取りで意欲的な構成である反面、いざ詳細に検討を始めると、細切れな部屋割りや空間の構成要素の些細な凸凹が室内に不要なラインを増やし、雑多で息苦しい印象を感じさせていた。
出会った当初から健やかでフラットな印象な彼らが求めるのは、抜けや明るさがあって(心身共に)風が通り、日々の生活や居心地の良さを丸ごと受け止めるストリートのような場所であった。
それに対し、まずは、吹抜け空間からの採光を遮っていた室中央部の間仕切壁を撤去し、大きな一室空間とすることで、採光が室全体に明るさをもたらし、外部を近くに感じられるように考えた。
その上で、水回りなどの必要諸室の位置は大きく変更することなく、室の中心部に再配置した。
機能を持った諸室は、適材適所そして適量の収納量をセットにコンパクトにまとめ、舞台のように立ち上がっている。
その周囲にある一室空間の斜め壁や梁など空間の細かな雑音は、棚板やカウンターなど必要なものの中になるべく取り込むことで印象を整理し、舞台に対して、より対比的にプレーンな空間となること目指した。
プレーンな一室空間は、玄関→洗面所→アトリエ→リビングダイニング→個室というように、生活動線を意識して計画することで、自然とグラデーションを持った居場所を作ることができる。
生活という舞台と周囲にあるそれぞれの居場所を自在に行き来し、その隙間に、彼らの分身のような制作物や本、雑貨などが散りばめられている。
作ることも暮らすことも特別なことではなく当たり前のようにつながっている、そんな施主家族の健やかな時間を受け止める土台となれたら嬉しい。
【BEFORE】
所在:東京都
施工:株式会社ミキホーム
設計:studio83
写真:studio83